監査における不正リスク対応基準 付録1 不正リスク要因の例示

監査における不正リスク対応基準

付録1 不正リスク要因の例示

 監査人は、リスク評価を行うにあたって、不正リスクの有無を判断するために、下記に例示された典型的な不正リスク要因を検討し、それらが不正リスクに該当するか検討を行わなければならない。

1 動機・プレッシャー

(1)財務的安定性又は収益性が、次のような一般的経済状況、企業の属する産業又は企業の事業環境により脅かされている。
(例)
 ・ 利益が計上されている又は利益が増加しているにもかかわらず営業活動によるキャッシュ・フローが経常的にマイナスとなっている、又は営業活動からキャッシュ・フローを生み出すことができない。
 ・ 技術革新、製品陳腐化、利子率等の急激な変化・変動に十分に対応できない。

(2)経営者が、次のような第三者からの期待又は要求に応えなければならない過大なプレッシャーを受けている。
(例)
 ・ 経営者の非常に楽観的なプレス・リリースなどにより、証券アナリスト、投資家、大口債権者又はその他外部者が企業の収益力や継続的な成長について過度の又は非現実的な期待をもっている。
 ・ 取引所の上場基準、債務の返済又はその他借入に係る財務制限条項に抵触しうる状況にある。

(3)企業の業績が、次のような関係や取引によって、経営者又は監査役等の個人財産に悪影響を及ぼす可能性がある。
(例)
 ・ 経営者又は監査役等が企業と重要な経済的利害関係を有している。

(4)経営者(子会社の経営者を含む。)、営業担当者、その他の従業員等が、売上や収益性等の財務目標(上長から示されたもの等含む)を達成するために、過大なプレッシャーを受けている。

2 機会

(1)企業が属する産業や企業の事業特性が、次のような要因により不正な財務報告にかかわる機会をもたらしている。
(例)
 ・ 通常の取引過程から外れた関連当事者との重要な取引、又は監査を受けていない若しくは他の監査人が監査する関連当事者との重要な取引が存在する。
 ・ 重要性のある異常な取引、又は極めて複雑な取引、特に困難な実質的判断を行わなければならない期末日近くの取引が存在する。
 ・ 明確な事業上の合理性があるとは考えられない特別目的会社を組成している。
 ・ 業界の慣行として、契約書に押印がなされない段階で取引を開始する、正式な書面による受発注が行われる前に担当者間の口頭による交渉で取引を開始・変更する等、相手先との間で正当な取引等の開始・変更であることを示す文書が取り交わされることなく取引が行われうる。

(2)経営者の監視が、次のような状況により有効でなくなっている。
(例)
 ・ 経営が一人又は少数の者により支配され統制がない。

(3)組織構造が、次のような状況により複雑又は不安定となっている。
(例)
 ・ 異例な法的実体又は権限系統となっているなど、極めて複雑な組織構造である。

(4)内部統制が、次のような要因により不備を有している。
(例)
 ・ 会計システムや情報システムが有効に機能していない。

3 姿勢・正当化

(例)
 ・ 経営者が、経営理念や企業倫理の伝達・実践を効果的に行っていない、又は不適切な経営理念や企業倫理が伝達されている。
 ・ 経営者と現任又は前任の監査人との間に次のような緊張関係がある。
 - 会計、監査又は報告に関する事項について、経営者と現任又は前任の監査人とが頻繁に論争している又は論争していた。
 - 監査上必要な資料や情報の提供を著しく遅延する又は提供しない。
 - 監査人に対して、従業員等から情報を得ること、監査役等とコミュニケーションをとること又は監査人が必要と判断した仕入先や得意先等と接することを不当に制限しようとしている。