監査における不正リスク対応基準 付録2 不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況の例示

監査における不正リスク対応基準

付録2 不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況の例示

 監査人は、監査実施の過程において、下記に例示された不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況が識別された場合には、当基準第二 10 にしたがい、不正による重要な虚偽の表示の疑義が存在していないかどうかを判断するために、経営者に質問し説明を求めるとともに、追加的な監査手続を実施しなければならない。

1 不正に関する情報

・社内通報制度を通じて企業に寄せられ、監査人に開示された情報に、財務諸表に重要な影響を及ぼすと考えられる情報が存在している。
・監査人に、不正の可能性について従業員や取引先等からの通報がある(監査事務所の通報窓口を含む)。

2 留意すべき通例でない取引等

(1)不適切な売上計上の可能性を示唆する状況

・企業の通常の取引過程から外れた重要な取引又はその他企業及び当該企業が属する産業を取り巻く環境に対する監査人の理解に照らして通例ではない重要な取引のうち、企業が関与する事業上の合理性が不明瞭な取引が存在する。

 (2)資金還流取引等のオフバランス取引の可能性を示唆する状況

 ・企業の事業内容に直接関係のない又は事業上の合理性が不明瞭な重要な資産の取得、企業の買収、出資、費用の計上が行われている。

 (3)その他

 ・関連当事者又は企業との関係が不明な相手先(個人を含む)との間に、事業上の合理性が不明瞭な重要な資金の貸付・借入契約、担保提供又は債務保証・被保証の契約がある。

3 証拠の変造、偽造又は隠蔽の可能性を示唆する状況

・変造又は偽造されたおそれのある文書が存在する。
・重要な取引に関して、重要な記録等に矛盾する証拠が存在する、又は証拠となる重要な文書を紛失している。
・重要な取引に関して、合理的な理由なく、重要な文書を入手できない、又は重要な文書のドラフトのみしか入手できない。

4 会計上の不適切な調整の可能性を示唆する状況

 ・期末日近くまで網羅的若しくは適時に記録されていない重要な取引、又は金額、会計期間、分類等が適切に記録されていない重要な取引が存在する。
 ・(根拠資料等による)裏付けのない又は未承認の重要な取引や勘定残高が存在する。
 ・期末日近くに経営成績に重要な影響を与える通例でない修正が行われている。
 ・重要な取引に関連する証憑、又は会計帳簿や記録(総勘定元帳・補助元帳・勘定明細等)において、本来一致すべき数値が不一致でその合理的な説明がない。
 ・企業が合理的な理由がなく重要な会計方針を変更しようとしている。
 ・経営環境の変化がないにもかかわらず、重要な会計上の見積りを頻繁に変更する。

5 確認結果

 ・企業の記録と確認状の回答に説明のつかない重要な差異がある。
 ・特定の取引先に対する確認状が、合理的な理由なく監査人に直接返送されないという事態が繰り返される。

6 経営者の監査への対応

 ・合理的な理由がないにもかかわらず、監査人が、記録、施設、特定の従業員、得意先、仕入先、又は監査証拠を入手できるその他の者と接することを企業が拒否する、妨げる、又は変更を主張する。
 ・合理的な理由がないにもかかわらず、企業が確認依頼の宛先の変更や特定の相手先に対する確認の見合わせを主張したり、他の確認先に比べて著しく準備に時間がかかる残高確認先がある。

7 その他

 ・企業が、財務諸表に重要な影響を及ぼす取引に関して、明らかに専門家としての能力又は客観性に疑念のあると考えられる専門家を利用している。
 ・重要な投資先や取引先、又は重要な資産の保管先に関する十分な情報が監査人に提供されない。